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2024.05.06 - 
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『山椒魚・遥拝隊長』

2009.05.16 - 日本文学
山椒魚・遥拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1)
山椒魚・遥拝隊長 他7編 (岩波文庫 緑 77-1) 井伏 鱒二

岩波書店 1969-01
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『山椒魚』とは、たかだか10ページの文章である。しかし、その10ページを読み終えると、何とも言われぬ不思議な心地にさせられる。多くを語らずとも読者に十分な感慨を抱かせることのできる文章が素晴らしい短編だと私は考えているが、その点で言えば、これまで私が読んできた短編の中では秀逸の部類に入る。
 
井伏鱒二のその他の作品に比べても、特に『山椒魚』は言葉遣いが独特であり、詩的に美しい。宮沢賢治が透き通った美しさだとすれば、井伏鱒二は無骨でごつごつとした美しさである。彼がこのような言葉遣いを敢えて用いることをしなければ、山椒魚の物語は何の変哲もない悲喜劇として薄っぺらいものになっていたと思う。特に最後の部分の山椒魚と蛙のやりとりが私の好きな部分であるが、この部分にいたっては、何か散文詩でも読んでいるような気分にさせられる。
 
本屋で五分もあれば読める作品である。一度でいいから読んでみてほしい。何度も読み返すごとに味の出る作品である。

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『春琴抄』

2009.05.15 - 日本文学
春琴抄 (新潮文庫)
春琴抄 (新潮文庫) 谷崎 潤一郎

新潮社 1951-01
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背表紙のあらすじには、盲目の春琴がその美貌を弟子に傷つけられ、奉公人である佐助もその姿を目に入れないために自ら盲目の世界に入るとあるので、これまた暗いお話かと思えばそうではない。幼少の頃から春琴に仕え続けていた佐助という奉公人の思いは恋というより崇拝であり、主人である春琴と同じ盲目になれたことは、真に彼女と心を通わせることにつながる。彼にとっては、盲目になるということ、それ自体がこの世にいながら極楽浄土を春琴と一緒に歩いていることに等しいのである。
 
作者の物語の描き方も特徴的である。語り手は、佐助が後年まとめた「春琴伝」なるものを読み、それに解釈を加えながら、春琴と佐助の関係を考察していくような描き方をしている。「春琴伝」自体が佐助という春琴の崇拝者かつ物語の当事者によって書かれたものであるので、当然にして彼の主観が存分に見られる。そこに語り手が、他の当事者の意見や解釈を交えながら、「こう書いてあるが、実際はこうだろう。」というように、春琴と佐助の関係を浮き彫りにしていく手法は、読んでいて春琴の神秘さを際立たせていた。
 
佐助と春琴の愛は決して直接に語られることはない。二人は、一般に愛の象徴とされる子供を三子もうけるが、すぐに里子に出している。子供という存在は、表に出せない二人の愛(世間的には公認の仲であったが、春琴の外聞を気にする性質から関係を表沙汰にはしなかった)を形式的に裏付ける一つの要素でしかない。二人は死ぬまで、そして死んでからも主従関係を貫いており、そこに佐助の武士道ともとれる純粋な精神が見て取れる。
 
生涯かけて一人の女性にとことん尽くす。どこか東野圭吾の『白夜行』に通ずるものがあった。後者はその尽くし方が歪んではいたけれど。両者は、主人公達の主観を描かないという点でも共通している。
 
自分の幸せよりも相手の幸せを願えることが愛するということなのだろう。
自分にはそんな生き方ができるだろうか。
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『陰翳礼賛』 

2009.05.15 - 日本文学
陰翳礼讃 (中公文庫)
陰翳礼讃 (中公文庫) 谷崎 潤一郎

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最近立ち読みした自己啓発本の中に、深い観察力を鍛えることを推奨するものがあった。普段何気なく目にしている事物でも、立ち止まってまじまじと見直してみることで新しい発見があり、脳を刺激するとのことだ。ある科学者は、生徒に一匹の金魚を3日間観察させて気付いたことを残らずメモさせていたという。初めは不承不承だった生徒も、3日目には発見の数に魅了され、大いに知的な思考力が鍛えられるそうだ。
 
陰翳礼賛の中では、日本人の伝統的な建築、服装や食べ物に至るまで、「陰翳」の文化というべき特徴を指摘していた。例えば、教会と京都の寺を比べてみても分かるが、前者は鮮やかなステンドグラスによってできるだけ陽光を中に取り入れようとする反面、後者は屋根を広く外側に突き出し、室内に陽光が入るのはなるべく防ぐ造りになっている。他の日本家屋の作りもこれに似た特徴があるはいうまでもない。
 
昔の日本人が意図してこのような建築を行っていたのかは分からないが、その建物の中に生まれる「陰翳」に美しさを感じ、その「陰翳」と共に在ろうと、服装や作法までをそれに合う形で工夫してきたのは事実である。日本文化は「陰翳」の文化であるといっても過言ではない。
 
私もそのような日本家屋が非常に好きだ。祖父母の家などは玄関から入るとすぐ薄暗い廊下があり、その先に床の間があるのだが、夏の夕方、それも少し雨が降りそうな時分に訪ねると、えも言われぬ静けさと暗がりの中で、やや不気味に奥へと続く廊下を玄関口から見るのが心地良い。そして床の間に入った後も、電灯をつけずに、薄暗がりの中に広がる畳の部屋を見る度に非常に安心する。
 
こうした日本人ならではの価値観や感じ方を改めて見直し、それは何故なのかと自答し、立ち止まって観察することで得られる刺激は我々の精神生活を豊かにする。あくせくと仕事に追われて働く日々も充実しているだろうが、たまの休日などには実家に帰り、落ち着いた日本家屋の中で、当たり前にある物事についてゆっくりと思いを巡らすことも大切なのではないか。

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 プロフィール 
HN:
yd0g
年齢:
37
性別:
男性
誕生日:
1987/02/03
職業:
学生
趣味:
音楽
自己紹介:
世界の平和を目指す一地球人。言うまでもなく甘党です。好物は明治のミルクチョコレート。"simple is the best."ですね。

もともとはコートジボワールでの滞在録でしたが、5月から一日一冊読書することに決めたので、その感想を徒然書いていこうと思います。
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